「もっと速い球を投げたい」。そう思ったとき、まず何を変えようとするでしょうか。筋トレを増やす、肩を強くする、フォームを直す。どれも候補になりますが、自分に足りないものがわかると、練習で取り組むことを選びやすくなります。
ボールを投げるときは、足で地面を押し、身体を前へ運び、胸や腕を動かしています。この一連の動きがうまくつながるほど、持っている力をボールに伝えやすくなります。今回は、球速を考えるうえで見直したい5つの要素と、トレーニングの変化を確かめる方法を紹介します。
1.下半身を中心に、力を出す土台をつくる
投げるのは腕ですが、投球は全身運動です。身体を前へ運ぶ力も、踏み出した足で身体を支える力も必要になります。その土台になるのが筋力です。下半身や体幹を鍛えることは、投球中に身体を安定させ、力を出しやすくするための準備と考えてみてください。
スクワットは、立ち上がる動きで脚の力を鍛える種目です。お尻を後ろへ引き、股関節を使って起き上がるデッドリフトでは、殿筋や太ももの裏などを鍛えます。前後に脚を開いて行うスクワットも、片脚に体重をかけて支える練習になります。まずは無理なく動ける重さで、姿勢を保って行うことが基本です。
お腹や背中など、身体の中心を支える筋肉も働きます。腕や脚を動かしたときに、腰が大きく反ったり、身体が横へ流れたりしないかを見てみましょう。体幹の練習では、呼吸を止めて固め続けるよりも、姿勢を保ちながら手足を動かすことを目標にすると、役割をイメージしやすくなります。
ここで覚えておきたいのが、「大きな力を出せること」と「短い時間で力を出せること」は少し違う、という点です。投球の動きは一瞬です。筋力を高めながら、軽い負荷を素早く動かす練習やジャンプなども組み合わせ、野球の動きへつなげていきます。
筋トレの重さが増えたら、キャッチボールや投球でも変化を確かめましょう。投げやすさ、ボールの強さ、同じ球を繰り返せるか。こうした感覚と球速を一緒に見ていくと、今の取り組みが自分の投球にどう役立っているかを振り返れます。
2.股関節や胸まわりが、動かしやすいかを見る
力を出すためには、身体を必要な位置まで動かせることも大切です。たとえば、股関節が曲がりにくいと、脚に体重を乗せようとして腰を丸めることがあります。胸まわりが回りにくければ、ほかの場所で動きを補おうとすることもあります。
見直したいのは、股関節、胸まわり、肩まわりなどです。しゃがむときに窮屈な場所はないか。脚を前後に開いたときに姿勢を保てるか。胸を左右へ向けたとき、どちらかに動かしにくさがないか。こうした簡単な動きから、自分の身体を知ることができます。
ストレッチをしたあとは、広がった動きの中で身体を支える練習もしてみましょう。股関節を動かしたあとに軽いスクワットを行う、胸まわりを動かしたあとにゆっくり投球動作を確かめる、といった流れです。「伸びた」で終えず、実際に動かしやすくなったかまで確認します。
肩や肘のまわりについても、軽いゴムバンドなどで無理なく動かし、支える力をつける練習があります。大切なのは、投球量や身体の状態に合わせることです。練習前にたくさん行って疲れさせるより、動かしやすくなる量を指導者と探していきましょう。
目標は、投球に必要な動きを無理なく行えることです。身体には個人差があり、左右の動きにも違いがあります。人と同じ柔らかさを目指して、肩や肘を強く引っ張る必要はありません。痛みが出る動きはやめ、気になる状態が続くときは医療機関などに相談してください。
3.足で生んだ力を、上半身へつなぐ
下半身で力を出せても、上半身の動きとうまく合わないと、その力を投球に生かしにくくなります。そこで見たいのが、身体を前へ運ぶ動きと、踏み出した足で支える動きのつながりです。右投げなら、右脚から動き出し、左脚で身体を受け止める流れになります。左投げはその逆です。
踏み出した脚は、その後に胸や腕が動くための支えになります。研究でも、踏み出し脚が地面から受ける力と球速の間に関連が報告されています。[1]ただし、これだけで「膝を強く伸ばせば速くなる」とは言えません。勢いのある身体を、自分に合った姿勢で支えられるかが大事です。
練習では、片脚で立って軽く膝を曲げる、横へ一歩踏み出して止まる、といった動きから始められます。足を着いたあとに大きくぐらつかないか、腰が横へ流れすぎないかを見てみましょう。慣れてきたら、少し勢いをつけて着地する練習へ進めます。
重さのあるトレーニング用ボールを使う「メディシンボール投げ」も、脚から胸、腕へ動きをつなぐ練習の一つです。ボールが重すぎると動き方が変わるため、身体全体で素早く投げられる重さを選びます。投げた距離に加えて、足元から動きがつながっているかにも目を向けてください。
4.力を出す順番とタイミングを整える
投球では、脚、骨盤、胸、腕などが連動して動きます。それぞれの動くタイミングがかみ合うと、力をボールへ伝えやすくなります。力いっぱい投げようとして肩や腕が先に動き、かえって投げにくくなった経験がある人もいるかもしれません。
フォームを見るときは、一瞬の形に加えて、動きの流れを確認してみましょう。いつ身体が前へ進むのか。足を着いた前後で、胸はどう動くのか。ボールを離したあとまで、無理なく動けているか。横や後ろから撮った動画を、普段の速さとゆっくりの両方で見ると気づきが得られます。
修正するときは、一度に意識することを絞ると取り組みやすくなります。「今日は踏み出した足で身体を支える感覚を確かめる」など、一つの目的を決めてキャッチボールを行いましょう。意識を変えた前後で、投げやすさやコントロール、球速がどう変わるかも確認します。
動画は、うまく投げられたときのものも残しておくと便利です。調子が落ちた日に見比べることで、「普段はもっと楽に動けていた」と気づくことがあります。自分のよい感覚を思い出す材料としても使えます。
速い投手のフォームは参考になりますが、体格や動かしやすい範囲は人によって違います。腰と胸のひねりを無理に大きくしたり、見た目だけをそろえたりすると、かえって動きにくくなることもあります。指導者と相談しながら、自分が力を出しやすい動きを探すことが大切です。
5.疲れをためず、力を出せる状態をつくる
球速は、練習の成果に加えて、その日の身体の状態にも左右されます。前日の投球や筋トレの疲れ、睡眠、食事などが重なれば、いつもより力が出にくい日もあります。調子が悪い日に練習量を増やす前に、ここ数日の過ごし方を振り返ってみましょう。
記録する内容は、難しいものでなくて構いません。投げた量、練習のきつさ、睡眠、肩や肘の状態を短く残すだけでも、自分の傾向を見つける手がかりになります。「強く投げる日が続くと球速が落ちやすい」など、数字と感覚を合わせて考えられるようになります。
球速を測るときも、最高の1球に加えて、何球か続けたときの変化を見てみましょう。最初は速くても、すぐに大きく落ちるなら、休憩や投げる量を見直すきっかけになります。変化の理由を決めつけず、ウォーミングアップや測定条件も含めて確認することが大切です。
速い球を投げる練習では、毎球を丁寧に投げられる状態をつくりたいところです。疲れが強い日は負荷を軽くする、十分に休むなど、予定を調整することもトレーニングの一部です。特に肩や肘の痛みがあるときは、球速を追いかけず、状態の確認を優先しましょう。
VBTで「重さ」と「動く速さ」を確かめる
トレーニングの成果を確かめる方法に、VBTがあります。簡単に言うと、バーベルなどを「どれくらいの速さで動かせたか」を測り、重さや回数の調整に役立てる方法です。[2]たとえばスクワットなら、何kgで立ち上がったかに加えて、そのときの速さも記録します。
同じ重さを以前より速く動かせるようになれば、力を出す能力が変わってきた可能性があります。一方で、いつもより遅い日は、疲れや体調を振り返る材料になります。毎回、機器や種目、しゃがむ深さなどの条件をそろえ、立ち上がるときは素早く動かすつもりで行うと、比較しやすくなります。
ただし、バーベルが速く動いた分だけ球速が上がる、という換算はできません。VBTは、身体の準備が進んでいるかを知る手がかりです。その変化を投球に生かせているかは、実際の球速や投げ方、本人の感覚で確認します。測定する道具がなくても、まずは重さや回数、投げた感覚を記録するところから始められます。
球速を上げたいときは、今回の5つから、今の自分が見直したいものを一つ選んでみてください。脚で支える力なのか、身体の動かしやすさなのか、それとも休み方なのか。目的を決めて取り組み、投球で確かめる。その積み重ねが、自分に必要な練習を見つける助けになります。
- McNally MP, et al. 2015. Stride Leg Ground Reaction Forces Predict Throwing Velocity in Adult Recreational Baseball Pitchers. J Strength Cond Res. 29(10):2708–2715. 踏み出し脚の地面反力と球速の関連。成人の投球経験者18名の研究で、トレーニング効果や全年代への適用を直接示したものではありません。
- Achermann B, et al. 2023. Velocity-Based Strength Training: The Validity and Personal Monitoring of Barbell Velocity with the Apple Watch. Sports. 11(7):125. 重りを動かす速さを測るVBTの説明。機器の精度に関する検証結果は、その研究の機器・種目・条件に限って解釈します。
資料確認日 2026年9月14日


