専門家・トレーナーの視点
評価設計に携わるトレーナーがよく口にするのは、「全員に同じ項目を課すことが、公平だとは限らない」という考え方です。 一見すると、全選手に同じ測定をすることが平等に見えます。しかし、投手に必要な評価と野手に必要な評価は違い、 成長期の選手と成人した選手に必要な評価も違います。同じものさしを全員に当てることは、 むしろ一部の選手にとって不要な負担になったり、逆に必要な情報が見落とされたりする原因になります。
本当の意味での公平性とは、「全員に同じことをする」ことではなく、「それぞれに必要なことを、それぞれに行う」ことです。 ベーシック評価とオーダーメイド評価を分ける発想は、この考え方に基づいています。
なぜ、評価を2段階に分けるのか
測定・評価の現場でよくある失敗が、「とりあえず思いつく項目を全部測る」というやり方です。 これでは時間もコストもかかる上に、本当に必要な情報が埋もれてしまいます。 稜線 Ryosenが大切にしているのは、まず全選手に共通する土台を確認し、 その結果を踏まえて、必要な選手にだけ個別の評価を追加するという、2段階の考え方です。
ベーシック評価:全選手に共通する土台
InBodyで身体の構成を確認し、スクワットやベンチプレスで、支える力・押す力・引く力を見る。 まずここで、全員に共通する基準を確認します。
オーダーメイド評価:選手ごとに変える視点
その上で、選手ごとに見る項目を変えていきます。
同じ「測定」でも、
誰に何を見るかで意味がまったく変わる。
なぜ、投手と野手で見る項目が違うのか
投手にとって重要なのは、下半身から生まれた力を、片側の肩・肘を通して一方向に発揮し続ける能力です。 そのため、片脚支持の安定性、投球側と非投球側の可動域の差、肩甲帯の柔軟性といった項目の優先度が高くなります。 繰り返し同じ動作を行う競技特性上、左右差や繰り返し動作への耐性を見ることが、故障予防の観点からも重要です。
一方、野手は打撃・送球・走塁と、複数の異なる動作を状況に応じて素早く切り替える能力が求められます。 そのため、瞬発的なパワー発揮、複数方向への回旋能力、スプリント能力といった、 より汎用的な運動能力を評価する項目の優先度が上がります。同じ「野球選手」でも、 求められる身体能力の質が異なるため、評価の重心も変わってくるのです。
分類別・主な評価項目
| 分類 | 主な測定項目 | 使い方 |
|---|---|---|
| ベーシック評価 | InBody、筋力、SJ、CMJ、立ち幅跳び、VBT基本種目 | 土台の不足を確認する |
| 投手向け評価 | 胸椎回旋、骨盤回旋、片脚支持、肩甲帯、投球動作 | 球速、制球、肘肩への負担との関係を見る |
| 野手向け評価 | 打球速度、バットスピード、回旋速度、MBスロー、スプリント | スイング出力とコンタクトの質につなげる |
| リハビリ明け評価 | 痛み、可動域、筋力左右差、出力低下、再発リスク | 復帰段階に合った負荷設定を行う |
| 成長期評価 | 身長、体重、除脂肪量、可動域、技術習得度 | 焦って高重量化せず、発育段階に合わせる |
※すべての選手にすべての項目を実施するわけではなく、目的確認の段階で優先順位を決めます。
数値を並べて終わりではなく、土台(共通)と個別(オーダーメイド)を分けて評価する。 これが、その選手に本当に合ったトレーニングを組むための前提になります。
ライフステージによっても、評価の重心は変わる
分類は競技特性やポジションだけでなく、選手のライフステージによっても変える必要があります。 中学・高校の成長期では、骨や成長軟骨がまだ発達段階にあるため、 高強度な筋力測定や高負荷トレーニングよりも、可動域・技術習得度・成長の記録を重視した評価が優先されます。
大学生・社会人になると、身体的な成長はほぼ落ち着き、最大筋力やパワーといった、 より競技力に直結する指標の重要度が上がります。プロレベルになると、 僅かな数値の差が結果に直結するため、より精密で継続的なモニタリングが求められるようになります。
同じ「野球選手」というくくりでも、身体の発達段階によって「今、何を優先して評価すべきか」は大きく変わります。 この視点を持たずに一律の基準を当てはめてしまうと、成長期の選手に過度な負荷をかけてしまったり、 逆にプロレベルの選手に対して評価が甘くなってしまったりする原因になります。
よくある疑問:「オーダーメイドは、時間もコストもかかるのでは」
「選手ごとに評価項目を変えるのは、手間もコストもかかるのではないか」という懸念はよく聞かれます。 たしかに、すべての選手に対してゼロから個別の評価体系を作るのは非効率です。 しかし実際の運用では、ベーシック評価という共通の土台があるからこそ、オーダーメイドの部分を最小限に絞り込めます。
たとえば、ベーシック評価の結果、体幹の左右差が大きいことが分かった選手にだけ、 回旋分析という追加項目を実施する。全選手に同じ全項目を課すのではなく、 「共通の土台で気になる部分が見つかった選手にだけ、深掘りの評価を追加する」という順番にすることで、 時間とコストを抑えながら、必要な選手には十分な評価を行うことができます。
現場での具体例
ある成長期の選手のケースでは、ベーシック評価の段階で、身長の伸びに対して筋力の伸びが追いついていないことが分かりました。 この場合、無理に高強度なオーダーメイド評価やトレーニングを追加するのではなく、 成長期特有の評価(可動域、技術習得度を重視した評価)に切り替え、筋力トレーニングの強度は抑える方針を取りました。
一律の基準で「筋力が足りない」と判断してハードなトレーニングを課していたら、 故障のリスクを高めていた可能性があります。分類別の評価があったからこそ、 その選手の発育段階に合った、適切な負荷設定ができた例です。
別の例として、リハビリ明けの投手のケースがあります。ベーシック評価では大きな問題は見られませんでしたが、 投手向けのオーダーメイド評価で片脚支持の安定性を確認したところ、 怪我をしていた側の脚で明確な左右差が残っていることが分かりました。 全体的な体力面は回復していても、細部の安定性がまだ不十分だったのです。 この差を放置したまま実戦復帰していたら、再受傷のリスクを抱えたままプレーすることになっていました。
パワーヒッタータイプの野手の例では、ベーシック評価の最大筋力・パワーの数値はどちらも高水準でしたが、 野手向けのオーダーメイド評価でスプリント能力を確認すると、同じ体格・筋力水準の選手と比べて明らかに数値が低いことが分かりました。 筋力を活かした一発の魅力はあっても、走塁面での消極性につながっていた可能性があります。 この選手には、筋力トレーニングの比重を落とし、スプリントドリルを重点的に処方する方針に切り替えました。
この記事を、どう活用するか
この記事の分類表は、「自分にはどの評価が必要か」を考えるための出発点として使ってください。 投手なのか野手なのか、成長期なのか、既往歴があるのか。自分の状況に当てはまる行を確認し、 そこに書かれている評価項目が、今の自分に本当に必要とされているものかどうかを、 指導者やトレーナーと一緒に考えるきっかけにしてもらえればと思います。
複数の分類に当てはまる選手(成長期の投手など)もいます。その場合は、それぞれの分類で重視される項目を組み合わせ、 優先順位をつけて評価していくことになります。分類はあくまで出発点であり、 最終的には、その選手一人ひとりの状況に合わせて柔軟に調整することが前提です。
稜線 RyosenのAthlete Support Programでも、 まずベーシックな評価で全体像を把握し、そこから見えた課題に応じてオーダーメイドの評価・処方を継続的に組み立てています。 全員に同じメニューを渡すのではなく、その選手に必要なものを見極めること。それが評価の出発点です。


